超ミクロ料理の店:芙亜滋 |
閑静な住宅街の中、奥まった小路の突き当たりにある日本料理の店。一見上品な料亭と見まごう店構えだが、ジャパニーズヌーベルキュイジーヌの旗手として名高い名店だ。
格子戸を横に引き「芙亜滋(ファージ)」と染め抜いた麻のれんをくぐると、林立する巨大な電子顕微鏡群に囲まれ圧倒される。客が席につき 電子顕微鏡のディスプレイ に顔を埋めると、給士が次々とプレパラート上に超ミクロ料理をセットする。客は十字レバーと3つのボタンを用いてマイクロマニピュレーターを操作し、平均50μの料理を舌の味蕾上に的確に運ぶのだ。 この店では喋ることはおろか、息をすることさえ許されない。息によってマニピュレーターのアームから料理が吹き飛んでしまうからだ。去年この店での 死亡者が5名 を数えたが、その全てが窒息死であった。 |
ミトコンドリアをアームの先でつつくと適度な弾性があり、鮮度の高さがうかがえる。よい素材の歯触りを胡麻の香ばしさで包んだ一品。
ゴルジ体のうまみをパイ皮が逃さず包みこんでいる。しかしながら リボゾームの渋味 がゴルジ体の甘味を殺しているのでは?惜しまれる佳作
店名の由来でもあるシェフ自慢の一品。オリーブオイルで軽く炒めたファージに拑桔系のソースが良く合う。
DNAの螺旋構造体が舌にからまりつく絶品。ただしマニピュレーターの操作は細心の注意を要求する。ふとした弾みで新生物を生み出す危険があるからだ。近年戸山付近で 「空を飛ぶかぼちゃ」「小学生にいたずらをする新巻シャケ」 等が目撃されているが、芙亜滋との関連を指摘する声が高い。
薬膳ケーキの店:MADAM.逎采’S |
「医はおやつから」をモットーに、ケーキづくりと薬膳とをドッキングさせた新趣向の店。女子大が近いせいもあって、夕方には健康志向の女性が列をなす。
行列に並ぶ人が飽きないように、道路に面したオープンキッチンからケーキづくりを見学できる店の作りになっている。店員は全員白衣を着用。天秤はかりで精密に原料をはかり、乳鉢を使って材料の調合からクリームのホイップまで器用に仕上げる。 |
表面を覆うカラメルのそこかしこに
健全なお通じのためには食物繊維の摂取が必須。逎采風ティラミスはマスカルポーネチーズの代わりに食物繊維の宝庫=納豆を使用。
スポンジケーキは卵の白身をホイップしたものに小麦粉、ユンケル黄帝液をまぜ焼き上げる。クリームは鮫の肝臓と蜂の子をペーストにし仕上げる。
通常のモンブランはマロンを載せるが、逎采風モンブランの上には 巨大なアリナミンA が鎮座ましましている。
打ちたて蕎麦の店:藪一茶 |
蕎麦は引きたて、打ちたて、湯掻きたてがうまいという。最近東京においても注文を受けてから蕎麦を打つ本格的な店が増えてきたが、蕎麦が食べられるまでに小1時間程かかるのが難点だ。
時間はないがうまい蕎麦を食いたい、そんな贅沢な人は湯島の老舗「藪一茶」に足を運ぶとよいだろう。 典型的な一茶系蕎麦を食べさせる「藪一茶」も、引きたて、打ちたて、湯掻きたての原則を守る頑固な店。だがこの店では注文から30秒もたてば蕎麦を食べることができる。 秘密は初代店主であり現役蕎麦打ちでもある水野源次郎(128歳)があみだした 亜光速蕎麦打ち法 にある。席につきせいろを注文すると、すぐさま緑色の楕円形物体がテーブルに運ばれる。「藪一茶」のせいろは丸い赤のうるし盆に載った普通のせいろだが、光速に近い速度で運ばれるため、 ドップラー効果 により紫方偏移し、回折により楕円に歪むのだ。 主人の源次郎は明治生まれにもかかわらず、20代の若さを保っている。亜光速で蕎麦を打つため、 ウラシマ効果 により彼だけ歳をとらないのだ。だが見かけは若くとも内面は明治生まれ、ときたま「日露戦争はどうなったい?」と周囲を苦笑させる。 |
なめらかなつゆの上をえび天が流れている。が、客はそのえび天をはしでつかむことはできない。はしによるつゆへの介入により、えび天の運動量と位置は把握不可能となっているためだ。
蓋をあけると波動関数がつぶれ、鴨南蛮が完成している/鴨が蕎麦を食い尽くして丸々と太っている、いずれかの状態へと遷移する。料理完成への客の意識の介入か?客は確率的事象を再確認するに過ぎないのか?この料理はいわゆる「鴨南蛮における客問題」として常に自由意思論者と決定論者の争点となってきた。かつてこの料理は猫を使用していたが、動物愛護団体の抗議により鴨へと変更になっている。
王宮料理の店:王漠楼 |
中国人は椅子を除いて全ての4つ足動物を食べるといわれているが、この店のメニューに接するたびあらためて貪欲なまでの食への探究心に心を打たれる。
食材があって料理があるのではない。料理があって食材が見いだされるのだ。この店へと足を運ぶたび厳粛な気持ちになる。まさに、東亜の秘蹟と呼ぶにふさわしい。 |
王漠楼独特の調理法により、鉄が柔らかく仕上がっている。舌の上に乗せると鉄がとろけ、喉の奥へと流れてゆく。貧血気味の方にも最適。
エンジンの香草蒸しはポピュラーな料理だが、 蒸し上がってもなお動きつづける 素材の新鮮さは王漠楼ならでは。口のなかで往復するピストンの感覚がなんとも楽しい。
フランスから空輸された本場のプルトニウムを、幻の茸、衣笠茸で包んだ逸品。放射能は 一級の気功士 により封じ込められている。ときたま α線 がピリリとくるが、通はその感覚がたまらないという。
フランス料理:マロニエの木の下で |
道に張り出したテラスがパリのカフェを思い起こさせる。開店した昭和35年から馴染みの客が毎日同じ席に佇み、パイプをくゆらせながら思索に耽る。ラタンのテーブルに籐の椅子。客のほとんどは初老の上品な紳士だ。客と店が一体となって本郷の街に似つかわしい雰囲気を醸しだす希有な空間である。
この店にはメニューというものがない。客もまた、注文などはしない。毎日同じ時間に、毎回同じ料理が供される。 この店では客が料理を選ぶことはない。逆に、料理が客質を淘汰していく。なぜなら、 「マロニエの木の下で」の料理は、思索のための料理だからだ。 |
白い大皿にフォークとナイフが十字形に交差し据えられている。この料理をめぐる論点は次の3つであるとされる。
1.フォークとナイフを座標軸にみたて、そこにデカルト的主観における超越的世 界(大皿)の克己をみる。 2.ごくオーソドックスに、アウグスティヌス的神的世界観のあらわれととらえる。 3.形式化の諸問題を問う。料理におけるロジカル・タイピングの崩壊、食器というメタ審級と食物という審級の相互侵犯。「無矛盾で充分に美味しい料理は決定不能な食物命題を孕む」ゲーデルの不完全性定理が象徴されている。 |
スープ皿にスプーンが無造作に放り込まれている。スープ皿に残る薄緑色の稜線が、かつてそこにスープが満たされていたことを示している。
この料理に我々は現象学的還元の主題を見い出しがちだが、それは穿ち過ぎであろう。ごく率直に料理人が料理を平らげてしまう事実に注目し、唯物論的史観における生産手段保有者との階級闘争に思いを馳せるべきである。 |
給士がうやうやしくワゴン上の大皿からドーナツの穴を取り分ける。めいめいの皿の上に盛りつけられるが、もちろんそこには何もない。
対他的存在の自明性に対する明瞭な批判がうかがえる。対自的存在の視線が交錯する「無」に突如として姿を表す不条理な存在。サルトルの有名な箴言 「ドーナツの穴が好物であったならば、エルビス・プレスリーもデブとは呼ばれなかったろう。」 を思い起こさずにはいられない。 |
元気居酒屋:「ガイア」 |
「いらっしゃいませ!」「はい!お二人様奥の席へどうぞ!」 暖簾をくぐると威勢のいい店員が出迎える。ここは居酒屋、味は多少落ちても、 安くてボリュームたっぷりの酒の肴。なにはばかることなく騒ぐことのできる、 ささやかなハレの空間。一日の仕事に疲れたサラリ−マンたちが、元気を補給する メンテナンス基地だ。 「はい!こちらの席へどうぞ!」バイトの女の子のきびきびした動作が、店員教育が 行き届いていることを物語る。案内された席に身を静め、熱いおしぼりで顔を拭く。 「奥の2名さまお通し!」「はい!お通し!」駆け足で男性店員がヘルメットを もってくる。ヘルメットを被り、バイザーを下ろし、座席付属の酸素マスクで口を 覆うと準備完了だ。Are You Ready!座席前方のパイロットの問いかけに、サムアップ で答えると、ガラスハッチが閉じ、轟音とともに我々を乗せた垂直離着陸機、シー ハリアーが舞い上がる。 世界初の米海軍直営居酒屋、ガイア。ハッチの中から店を見渡すと、ダウン バーストのようなハリアーの排気にのけぞる店員たちの向こうに、今日のおすすめ と書かれたホワイトボードがあった。ボード上に「大舟盛り」の文字を認めるや、 背中にGがかかり、垂直離着陸機は水平に移動しはじめる。 さあ、宴会の始まりだ。 |
厚木から5分もたったろうか。ブラックアウト気味の視覚を奮い立たせるように頭を
左右にふり、機体の下を覗く。フラクタル図形のような、三陸のリアス式海岸。 入江に降下し、岩場の上をホバリングしていると、漁師がとりたてのホヤを投げて よこす。この新鮮な素材が「ガイア」の売りだが、パイロットは「ほや」を見るのが 初めてなのか、ほやをぱくつくこちらを不安そうに眺めている。 |
さあ、ビールはやはり本場ドイツだ。東回りは遠いので、ユーラシア大陸を横断し
ヨ−ロッパに向かう。途中中国軍のスクランブルを受けたが、共産党も今の時期に
アメリカとのごたごたは避けたいところなのだろう、中国を通り過ぎると素直に
引き下がっていった。 3回の空中給油を受け、東欧を堂々と横切る。冷戦終結を実感する瞬間だ。 ミュンヘンに降り立つと、ドイツ娘が陶器製のジョッキでお迎えだ。ダンケシェン! |
今日のおすすめである大舟盛りをたのむと、パイロットの表情が一瞬曇った。 舟盛りが用意されているのは、鰹の本場、セーシェル諸島。直線距離で結べば、 イラク上空を通過することは必須だ。 トルコ領をとおりすぎるとコックピット内に緊張感がみなぎる。乾いた電子警告音。 どうやら、イラクのレーダーから電波が照射されているのをセンサーがキャッチした らしい。 シーハリアーは180度転身するとレーダー基地に急降下。ビンゴ!スマート爆弾 が炸裂し、基地は壊滅だ。 ミッション終了後の爽快感は格別だ。セーシェルの海に沈む夕日を眺めながら、 ちょっとぬるくなったジョッキのビールを傾ける。これでまた、明日も仕事に打ち込め そうだ。 |
発掘懐石の店:「弥生」 |
竹の引き戸に紙の灯籠、ふと見過ごしがちな住宅街の一角に、「弥生」はある。
店がまえのどこを見ても、そこが料理屋であることに気づくものはいまい。 一見の客は、弥生での晩餐にあずかることはできない。それどころか、つてをたどっての紹介でも、 この店の敷居をまたぐことはできないのだ。 「弥生」は、創業推定紀元前1000年。史実にさえその起源が記されていない、世界最古の店である。 店に入ると、そこはまるで病院。店員の案内で歯科医院にあるような診察台に身をあずけると、 血液検査のための注射針が左腕静脈にうちこまれる。 採取した血液によるDNA検査。「弥生」の最新テクノロジーが、客の血統を瞬時にして割り出す。 ここで自らの出生を何世代にも逆上って証明できる者のみが、弥生の料理にありつけるのだ。 ここを訪れる客は、何十代にもわたって弥生の客であることを証明せねばならない。なぜなら、 これから口にする料理を注文し、材料を調達し、仕込みを行ったのは、弥生の料理人ではなく、 ここを訪れた客の先祖その人だからだ。 |
葉千枚は、弥生料理の定番だ。客のDNAを確認した弥生の発掘人は、
店の裏庭に切り立つ崖から、刷毛と木槌を使い慎重に料理を「掘り出す」。
美濃焼きの大皿に盛られたミルフィーユは、厚さ約3センチ。1センチが
1000年の時代を刻む、食べる遺跡である。 3000年の長きにわたり徐々に積み重ねられた椎の実は、土壌の重みで 体積が10分の1に圧縮されている。最も下の部分、弥生時代の椎の実は、 ほのかに炭化して香り高い味を醸しだしている。上層部はまだ椎の青々しい えぐみを残していて香ばしい。この味を3000年かけてつみかさねてきた 先祖に感謝せねばなるまい。 |
メインディッシュは、推定500年前の鯛。弥生のメニューの中では、
最も新しく新鮮な部類だ。もっとも、刺し身として賞味するには、
このあたりの年代が限界なのだが。 桐の箱の中に、慎重に切りだされた土の固まりが納まっている。赤い火山灰の 地層、酸性土壌の関東ローム層が、鯛を500年の長きにわたって鯛を新鮮な ままに保ち、さらにえもしれぬ風味をしみ込ませるのだ。 赤土を切り開くと、鯛の新鮮な白身が、まるで今朝水揚げされたかのように 顔をのぞかせる。身を覆っていた脂肪が、ほのかな酸味をおびてクリーム状 になっている。絶品だ。 料理を堪能した客は、今度は料理人へとその役割をかえる。店の裏に立ち 、最適な場所を選択し、発掘人たちに埋めるべき食材を指示する。 アボガドに鰯、アクセントにオリーブの実。1センチあたり数十トンの圧力に 囲まれ、この食材は1000年後にどのような美味に生まれ変わるのだろうか。 子孫たちは、この食材を調達した祖先の生活に、どのような思いを馳せるので あろうか。そんなことを想像しながら、私たちは弥生を後にした。 |
ビヤガーデン 砧 |
所在地:世田谷区砧M−78 営業日:7月から9月 不定休 |
じりじりと喉の奥まで照り返すアスファルトの熱、Yシャツに染みこんではまとわりつく
汗の粘性膜。真夏の夕方は、かなうことならばやりすごしたい、一生の内でも最も不快な一時だ。 最低値を振り切った活力のバロメーターを回復させるには、夜風を孕んだビアガーデンで、 冷たいやつを喉の奥にたたき込むのが一番だろう。 世田谷区砧。公園に隣接する住宅街の一角に、知る人ぞ知る穴場のビアガーデンがある。 ビールメーカーの提灯にともる裸電球。安物のビニール製テーブルクロスには、 煙草の焼け焦げの跡が無造作に放置されている。一見時代においてけぼりになったビアガーデンの典型。 だが、ハリマの真骨頂は、入口からテーブルにつくまでの、爽快感あふれる演出にある。 入口を入るとすぐにロッカールーム。一畳敷ほどの更衣室にはいると、ビニール の匂いがツンと鼻につく。 目の前に吊るされた赤と銀色のコスチューム。背広を脱ぎ捨て、きぐるみに身を包むと、 ウルトラマンに変身だ! 更衣室を出ると、そこに待っているのは既に着替えをおえたウルトラの兄弟たち。 科学特捜隊の店員に導かれエレベータに乗る。皆が両手を腰にあて、既に気合満々だ。 エレベータをおりると、ビルの1フロアがミニチュアの街で埋めつくされている。 ピアノ線に吊るされたウルトラホーク一号が、傍らを通り過ぎ火花を吹く。 「キラアアアン」フロアの向こう、街を押しつぶしのし歩くエレキングが、ウルトラホークの 火砲を受け咆哮を上げる。 円谷プロ直営ビアガーデンハリマ、さあ、戦いに残された時間は、わずか3分だ! ディユワッチ! |
残り2分50秒: |
まずはおきまりの空手チョップ。首なげで地面にころがすとぬるっとした感触。
どうやら、エレキングの体はイカでできているらしい。 ウルトラセブンが放つアイスラッガー一閃で、エレキングの首をはね上げ、第一関門突破だ。 たおれたエレキングを残して次のフロアに急ぐ。振り返ると、前掛けをした 5,6人のセブン達が、アイスラッガー状の包丁で仕上げにはいっている。 |
残り1分30秒: |
「フォーフォッフォッフォッフォッ」宇宙忍者、バルタン星人が突如目の前に現れる。
「フォーフォッフォッ」「フォフォフォ」気がつくと4体のバルタン星人に、あたりを
囲まれてしまう。ハイキックを頭に一発。キチン質の感触。どうやら、バルタン星人は
オマール海老を纏っているようだ。 ウルトラビーグルがミサイルを発射すると、バルタン星人の外骨格が香ばしい煙をあげる。 両隣に構えていたウルトラマンティガがキックをお見舞い。倒れかけたバルタン星人に、 ビーグルがバターとパセリの集中砲火をお見舞いだ。 倒れたバルタン星人を残して次のフロアに急ぐ。振り返ると、担架で運ばれたバルタン星人が、 まさにオーブンへと放り込まれようとしている。 |
残り49秒: |
夕焼けにそまる、山麓の発電所。白い火花が上がり、発電所が踏みつぶされる。 「キュアアアン」全身に刺をちりばめた、アンギラスの登場だ。 アンギラスの外装には、ムラサキウニがちりばめられている。うかつに手を出すことは危険だ。 ウルトラの兄弟たちも、なすすべもなくあとずさりする。 「キュアアアン」かすかな潮の香りとともにアンギラスが接近する。 「ピコンピコンピコン」胸のカラータイマが点滅する。残された時間は、あとわずか30秒だ。 とっさに両手を十字に組み合わせ、スペシウム光線発射のポーズをとる。 すると驚いたことに、白い炎がアンギラスめがけ直進し、閃光を上げて爆発するではないか! あらためて両手をみると、そこにはIWATANIのロゴとミニボンベ。 簡略式のガスバーナーがしこまれていたようだ。 ヘヤッ!両手を上げると、ピアノ線に引き上げられた我が体が宙を飛ぶ。 下を見ると、ほっかむりをしたおばちゃんたちがアンギラスに群がり、金属のヘラで器用に ウニの中身を取り出している。 庭に出ると、既に戦いを終えた戦士たちが楽しそうにジョッキを傾けている。 ウルトラマンキッズが駆けてゆくさきには、ウルトラの父と母もいる。泥酔した ウルトラマン80を、ガッツ衣装の店員が介抱している姿も見える。 テーブルに並ぶ、エレキング、バルタン星人、アンギラスの姿作り。今日の戦果を 胃に収めようとハシをのばすと、背中を叩く者がいる。ふりかえると そこにはレシートを持ったカネゴン。 M78星雲の勇者も、こいつばかりは倒すわけにはいかないようだ。 |
リストランテ:「イル・ベッキオ」 |
各国大使館が並ぶ代官山。女性が多く闊歩するこの街はまた、イタリア料理店の激戦区
でもある。 居並ぶ老舗や有名店の中で、イル・ベッキオは独特の存在感で固定客をつかみ続けてい るユニークな店だ。 白い洋館風のたたずまい。薔薇の垣根ごしに店の中をのぞき見ると、ウエイトレス達が ささやくように談笑している。 こちらの視線に気づくと、かああっと顔を赤らめ、口に手をあてながら窓から離れる。 「きゃん!」どうやら1人が転んだらしい。「もう、D子ったらドジなんだからあ」また 、鈴を転がすような笑い声がかすかに聞こえる。 「い、いらっしゃいませ」席に着くと、段カットのウェイトレスが、伏せ目がちに話し かける。内股に白いハイソックス。お盆を両手で抱え、顔の半分を隠している。 胸のネームプレートを差し、「陸奥D子さんですか?」と尋ねると、「さっきの見てた のですか、お客さんのいじわる!」と言い残し小走りに去っていった。テーブルの上には 「イル・ベッキオ新春特大号」と題うったメニューが。 厨房の脇ではウェイトレスたちがこちらを遠まきに見ながらささやいている。それぞれ、 陸奥D子、陸奥S子、陸奥B子のネームプレートを付けている。 そんな店員たちの態度を、いぶかしげに見つめたりしては失礼だ。なぜならここは、日本 、いや世界で唯一の、乙女ちっくなレストランなのだから。 |
ケント紙のようなパイ生地に、特性ココアインクと丸ペンを使って描かれた
細やかな線。エアーブラシで描かれた、果汁による淡い色彩の背景。 主人公の女の子はモッツァレラチーズ透き通るような白に、小さく描かれたトマトによる唇が 愛らしく、また思いを寄せる男の子の、ルッコラを用いた緑色の髪の毛が初々しい。 全体に効かせた生クリームのスクリーントーンに、淡い青春の1ページを感じる一品。 |
直径60cmのカルツォーネに、40pの読み切りを載せた意欲作。 イタリア料理にはめずらしいリンゴを素材に用い、Gペンを模したペンネを クリームソースで絡めた扉のページ。 フンギポルチーニを用いた集中線が主人公の驚きをあらわすと、四段ブチ 抜きで男の子が登場。廊下ですれ違いざまに肩がぶつかり、主人公が抱えていた 本が散らばる。差し出す男の子の手はアンチョビ。すえた香りが、ロマンチック な出会いを予感させる。 |
ラーメン:「りゅうし」 |
新玉川線駒沢駅からほど近く、環状7号線の交差点周辺は、有名店がひしめくラーメン
激戦区だ。 濃厚なトンコツラーメン、澄んだ醤油味の東京ラーメン、様々な味が集うこのエリアに 、新たな名物店がまた加わった。 「ラーメン」の白字が踊る赤い暖簾。一見どこにでもあるような小さな間口のりゅうし は、ラーメン通を唸らせる店として今や行列が絶えることがない。 満足げな表情を浮かべながら店を出る客を横目に見ながら並ぶこと30分。10席ほど の窮屈なカウンター席に空きを見つけ体をねじ込むと、旬のラーメン屋に特有の、独特の 緊張感を皮膚に感じる。そう、ラーメンとはある意味、客と店主との真剣勝負なのだ。 店のメニューはいたってシンプルだ。ラーメン650万円、チャーシュー麺1000万 円。ラーメンを食べおえた客は、1キロはありそうな札束をカウンターに置き、次の客の ために足早に去ってゆく。 厨房には、鍋も包丁もない。一人で店を切り盛りする店主は、真剣な表情でモニターを 見つめ、制御盤らしきスイッチの集合体に指を這わせている。 客全員が固唾を飲んで見つめるモニターの向こう。そこで、革命的といわれるりゅうし のラーメンが作られてゆく。 店の地下、世田谷区の中心部に広がる円周6キロの超巨大粒子加速器。ここで生み出さ れる対消滅の芸術が、他店には絶対にマネのできないりゅうしの味を醸しだすのだ。 |
チャーシューメン加速器システム。海苔とメンマは先ず電子・陽電子リニアックで2.5GeVに加速され、
2キロ先に配置されたレンゲターゲットに衝突する。ここで発生したクォーク対が独特の味わいを具に与えるのだ。 続いて麺が衝突リングに入射、30GeVまで加速され、つゆを満たしたドンブリターゲットに激突する。 ここで生じた強い相互作用により麺の「こし」が励起され、りゅうしラーメンの基本が成立する。 |