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第四回嘘競演
御題   ぎゃふん
開催期間 1997/9/8--9/15
主催議長 御御

*下記作品は著者の許可を得て転載するものです。
*未収録の作品で転載を許可くださる方は、ghc00262@nifty.comまで連絡お願いいたします

HQF01407  黒                読捨新聞 今日のキーワード「ぎゃふん」
97/09/08 17:30

今年になって世界各国の辞書に「GAPHON」という新語が次々登録された。
「NO−KYO」「KARO−SI」などと同様、これは日本語である。
「ぎゃふん」・・・この言葉が今世界で最も親しまれている日本語なのだ。

「ぎゃふん」と聞いて貴方は何を思い浮かべるだろう。「4コママンガ」と考えた方
には今すぐその考えを捨てることをお勧めする。「GAPHON」はかつての「ぎゃ
ふん」とは似て非なる言葉なのだ。
『「GAPHON」、とてもすばらしい言葉だ。前半分の荒々しい「GA」を後半分
の「PHON」が鎮めている。一つの言葉に2つの感情が同居し、しかも調和してい
る。これは「ZEN」の「SATORI」だ。日本人の感性には驚かされるよ。』
これは先頃来日した歌手スティングの言葉。環境問題で日本を嫌っていると言われる
彼もこの言葉はお気に入りで、新しいアルバムにはその名も「Gaphon whales」(邦
題「すばらしい鯨達のバラード」)という曲が納められている。
その他、コンピューターソフトの最大手「マイクロソフト」社のインターネットホー
ムページも、先頃、話題のサイトを紹介するコーナーの名前を「It's cool」から
「It's gaphon」に変更した。その後アクセス数は3倍を越え、担当者はぎゃふんと
うれしい悲鳴をあげた。

この言葉「ぎゃふん」を全世界に紹介したのは日本のパソコン通信会社ニフティサー
ブ。ここのコーナー「新嘘情報」の内容が「New false report」としてインターネッ
トに発信されたのがきっかけと言われている。
この企画をプロデュースした伝説のネットワーカー「ぶぶたろう」氏はこのブームを
どう思うかという小紙の質問に、笑みを浮かべ「ぎゃふん」と答えた。

日本のタレントや若者も「ぎゃふん」を使い始めている。「ぎゃふん」が21世紀の
全世界を結ぶ言葉になるであろう事は想像に難くない。貴方も「ぎゃふん」を覚えて
若者をぎゃふんと言わせてみよう。

                 読捨新聞 解説委員 黒HQF01407

義眼              模範解答
97/09/09 03:41


平成9年度前期試験 日本言語史概論(A):担当吉崎助教授
模範解答(120点満点)

問1「ぎゃふん」の語源を、その類義語紹介を含めて簡潔に記せ
(24点)。
<模範解答例>
「ぎゃふん」の語源は、1837年、幕府の腐敗政治に反乱を起こし
た大塩平八郎が捕らえられた際、当時の逢坂奉行町田有衛門に「義や
噴なり、義や噴なり、悔しきかな」と訴えたことに由来する(文化元
号逢坂奉行所覚書による)。当初はこの言葉通り、「自らに義がある
にも関わらず屈辱を受けねばならない悔しさ」を示すためのものであ
ったが、時代とともに意味は変容し、昭和末期には「相手に圧倒的に
打ち負かされた様」を表す用語として定着した。現在では日本のみな
らず英語圏、フランス語圏でも用いられている。同じ語源を持つ言葉
として「義憤」があり、こちらは「自らの不利益ではなく世の不公正
に対する憤り」を意味し、より語源の意に近いものとなっている。

<キーワード(6つ)> 大塩平八郎、「義や噴なり、義や噴なり、
悔しきかな」、自らに義があるにも関わらず屈辱を受けねばならない
悔しさ、相手に圧倒的に打ち負かされた様、義憤、自らの不利益では
なく世の不公正に対する憤り


問21970年代から80年代のいわゆる「ぎゃふん大衆化現象」の経緯を
説明せよ(36点)。
<模範解答例>
1970年代後期から80年代前期にかけて、一部の子供向け媒体により、
「ぎゃふん」が急速に大衆化した。その主な媒体は、小学館発行の小
学n年生(ただしnは1から6までの整数)であった。この雑誌の付
録にある冊子の中では、当時の小学生に影響を与えた様々な冗談が紹
介されており、多くの場合、冗談を言われた側が「ぎゃふん」といっ
て物語が終了するという形式が用いられている(ぎゃふんによる文脈
収束)。当時この形式は一世を風靡し、「ぎゃふん」は急速に大衆化
した。
当時最も典型的とされた「ぎゃふん」のジェスチャーは、両手を体の
側面にぴったりとつけ、両手のひらを下にむけて、後方約45度の角
度で、目をつむり、頭から湯気をあげながら飛び跳ねるというもので
「ぎゃふんプロトタイプ」と呼ばれた。このジェスチャーの登場によ
り、「ぎゃふん」は身体言語として認知されるようになった。
しかしこの語に伴うジェスチャーのありかたは多くの議論を呼んだ。
焦点となったのは、飛び跳ねるときの角度で、後方に75度とする保
守派と、45度までは認めるべきだとの主張を持つ急進派が激しく対
立、武力闘争にまで発展した。この論争の是非については未だ裁判で
審議中である。

<キーワード(9つ)> 小学n年生(ただしnは1から6までの整
数)、冗談を言われた側が「ぎゃふん」といって物語が終了するとい
う形式、ぎゃふんによる文脈収束、「両手を体の側面にぴったりとつ
け、両手のひらを下にむけて、後方約45度の角度で、目をつむり、
頭から湯気をあげながら飛び跳ねる」、ぎゃふんプロトタイプ、身体
言語、後方に75度とする保守派、45度までは認めるべきだとの主
張を持つ急進派、裁判で審議中


問3「ぎゃふんの完全非対称性」とは何か、簡潔に説明せよ(24点)。
<模範解答例>
「相手をぎゃふんといわせる」という語は頻繁に使われるが、実際に
相手が「ぎゃふん」と言うことは、実際の生活場面においてほとんど
ない。このように、「ぎゃふん」においては「ぎゃふん」と言わせる
者と言う者の行動に著しい非一貫性が見受けられる。これを「ぎゃふ
んの非対称性」という。 
 同様に非対称性を持つ語には「首を長くして待つ」というものがあ
る。この語は、首を長くして待つ人が実際に首を長くするわけではな
いという点において非対称である。しかしこの語はほとんどの場合、
自動詞的に用いられ、目的語に相当する対象が存在しない。すなわち
主客が分離されていないという点で、不完全非対称と呼ばれる。これ
に対し「ぎゃふん」は言わせる者(主)と言う者(客)が完全に分離
されている。そのためこれを「ぎゃふんの完全非対称性」という。

<キーワード(6つ)> (行動の)非一貫性、ぎゃふんの非対称性、
自動詞的に用い、不完全非対称、言わせる者(主)と言う者(客)が
完全に分離、ぎゃふんの完全非対称性


問4「ぎゃふんの完全非対称性」の学問的影響について簡潔に述べよ
(36点)
<模範解答例>
「ぎゃふんの完全非対称性」は1974年にジル・ドゥルーズとフェリ
ックス・ガタリによって発見され、デカルト以来の主客問題への新た
なアプローチとして、ジャック・ラカン、ジャック・デリダ、ミシェ
ル・フーコーらのポスト構造主義に影響を与えた。ラカン、デリダら
は「ぎゃふん」を「テクスト」としてとらえ、精神分析学の立場から
「ぎゃふん」とマルクス主義との関係性について論じた。フーコーは
「ぎゃふん」を「装置」としてとらえ、主著『言葉と物』の中で「装
置としてのぎゃふん形成」の歴史的経緯を詳細に分析した。ドゥルー
ズ、ガタリとは別に、日本では廣松渉が『存在と意味』で「ぎゃふん
の間主観性」を提唱しているが、これは「ぎゃふんの完全非対称性」
とほぼ同義であるとの見方が今日では主流である。

<キーワード(9つ)> ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリ、
ポスト構造主義、テクスト、「ぎゃふん」とマルクス主義との関係性、
装置、装置としてのぎゃふん形成、廣松渉、ぎゃふんの間主観性、「ぎ
ゃふんの完全非対称性」とほぼ同義


【採点基準】
キーワードが解答に含まれていない場合、一つの語につき4点減点。
また含まれていたとしても文脈が著しく不明瞭、または間違っている
場合には4点減点とする。
60点以下の者には追試またはレポートを課す。詳しくは吉崎(文学
部言語文化研究棟109)まで。



光デパート        通信教育
97/09/09 09:09

第二種擬態語検定士通信教育 <第2回> 50点<時間60分>


問題1.以下の下線部分を適切な擬態語に訳せ(20点)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アメリカのGDPは1993年以来堅調な伸びを続けているが、その増加率は今年に入り
                      (1) ̄ ̄ ̄
やや縮小しつつある。特筆すべきは、持続的な成長にもかかわらずインフレ率が
  (2) ̄ ̄
低く推移していることである。連邦準備制度理事会のグリーンスパン議長は、80                
             (3) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄           (4) ̄
年代より継続しているハイテク中心の生産性向上が、インフレなき成長を可能に
 ̄ ̄
しているとの見解を示している。

 解答欄          採点欄
(1)テッパン         ×
(2)シオシオ         ○
(3)ハリャフリャ       ○
(4)シメログリグリ      ×

                   10点/(20点中)
添削者より:
(1)堅調をあらわす擬態語としては「パンパン」が正解。テッパンは「魂の咆哮」
 「血の叫び」を表わす擬態語。若干ニュアンスが異なる。
(2)減衰感を表わす擬態語として、他に「ちょちょ」「めめり」など
(3)連邦準備金制度理事会等、時事関連で頻繁に登場する単語については確実に
  押さえておきたい。試験に頻出する擬態語として他に「テムポチボチン」
 (安全保証理事会常任理事国)、「ネメネメ」(高級事務次官レベル協議)等
(4)シメログリグリは70年代に対する擬態語「シメロ」に60年代への郷愁が、
 「グリ」に高度成長時代の終焉が表現されている。80年代の擬態語は「ポチ
  ヲメリメリ」


問題2.以下の全文を擬態語なしの和文に訳せ(30点)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ホリャイでフーッてみていたら、トピトピがドカーンといってギャフンよ。
もうメチメチでフリフリで、アヂサヌもヘロヘロだね。


解答欄

東京証券取引所の午前の取引は、薄商いの中裁定取引による売りが先行し、
       (1) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
やや軟調な地合となった。午後は公的機関による買いも入ったが、結局

ズルズルと下げ、日経平均は前日比120円安で引けた。
(2) ̄ ̄ ̄                     (3) ̄ ̄ ̄ ̄
                   20点/(30点中)
添削者より:

(1)午前の取引
「ホリャイ」は「東京証券取引所の前場の様子」(-2)
(2)ズルズルと
擬態語が混入している(-5)
(3)120円安
「アヂサヌ」は日経平均117円安の擬態語(-3)

やま              『ローズバッド』
97/09/10 02:08


それは一本の電話で幕をあけた。

富豪のペントハウスが建ち並ぶ華やかなビバリーヒルズの片隅で、メディア王と
呼ばれたリチャード・ハーディングがひっそりと息をひきとった。彼が残した最
後の言葉 ―――― 「ぎゃふん」

この言葉を追って取材を開始するウズベスチア紙特派員ミゲル。
そしてミゲルのもとに次々と届けられる匿名の手紙。ミゲルの背後に国際的陰謀
の黒い罠が忍び寄る。
厳冬のアイスランドと北朝鮮穀倉地帯を結ぶ日本企業“勝俣海運商事”の正体と
は何か。取材線上に浮かぶ、謎の鍵を握る女ジュディ。そして暗躍する秘密結社
“蛇頭”の影。
はたして「ぎゃふん」に秘められた謎とはなにか。
今、世界を揺るがす陰謀が暴かれる。

鬼才アキ・カウリスマキ監督が詩情豊かに描くサスペンス・ムービーの決定版
『ローズバッド』来春日本公開決定。


              Rosebud
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      20th CENTURY FOX Presents/an AKI KAURISMAKI Film
   Jonathan Price/Uma Thurman/Denholm Eliot/Tia Carrere/Juzo Itami
  Music Composed by Michael Camen/Director of Photography Sven Nykvist
  Produced by Michael Phillips/Directed and Written by Aki Kaurismaki

         ヴェネチア国際映画祭オープニング作品
        ゆうばりファンタスティック映画祭正式招待作
           本年度アカデミー賞有力候補


ロサンゼルスタイムス紙
 「鬼才アキ・カウリスマキ監督が放つ超話題作!」
デイリーテレグラフ紙
 「フィンランドのカウリスマキとハリウッドの幸福な邂逅」
ニューヨーカー誌
 「『市民ケーン』で新聞王が残した最後の言葉"薔薇の蕾 Rosebud"。
  この映画はカウリスマキがオーソン・ウェルズへ捧げたオマージュである」
ワシントン・ポスト紙
 「ハリウッドを席巻する新しい感性の映画監督達。ベッソンは未来へ向かい、
  カウリスマキはアジアに向かった。」
ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙
 「その日世界は“ぎゃふん”の謎に驚愕するだろう。」
おすぎ評
 「とってもおしゃれなサスペンス・ムービー。恋人とぜひどうぞ。」
an-an評
 「今年の夏はユマ・サーマンで“ぎゃふん”!!」


                                  97/09/10(水) やま

義眼              生還
97/09/10 10:34

 それは初夏というのに真夏のように暑い日でした。いつものように職場へと
車を走らせていた私は、その日少し寝坊したこともあって、多少スピードをあ
げていました。会社までの道のりは約40分、私は渋滞を避け、いつも通る抜
け道を走っていました。
 
その抜け道には、自宅と会社のほぼ中間あたりに緩やかなカーブがあり、事
故がよく起こることで有名でした。私は通勤で毎日そこを通るたびに、一応気
をつけるようにはしているのですが、もう慣れてしまっていたため、その日は
油断していたのかもしれません。しかし、事故のきっかけとなったのは、私の
油断というよりも、そこで見つけた看板のような気がするのです。

私の車がそのカーブに差し掛かった時でした。昨日は見かけなかったはずの
交通事故警告の看板が私の目に飛び込んできました。

「スピード落としてもいいかなー?いいともー!」

 見た瞬間、どうしてかわかりませんが、背筋が寒くなりました。今思うとそ
の言葉があまりに時代錯誤だったので驚いていたのでしょう。しかし、その看
板は確実に私の集中力を運転からそらしました。目の前にガードレールが迫っ
ているのに私は気付かなかったのです。ブレーキを踏む間もなく、ガードレー
ルはあっと言う間に私の目前に迫ってきました。それから何が起こったか、私
には思い出せません。


                ◇◇◇


 今思うと、まるで夢を見ているようでした。そのとき私は草原の上に立って
いました。空は青々と澄みきっていて、なだらかな丘陵が地平線まで続き、緑
の芝生が広々と広がっています。周囲360度、木らしきものは一本もなく、
ただただ芝生だけが延々と続いているのです。唯一目につくものは河でした。
遠くの方に小さな河が流れています。陽の光がきらきらと反射しているので、
遠くからでもすぐに河だとわかりました。昔なにかの雑誌で見たことのある、
モンゴルの草原のような風景でした。

 ただ、ひとつだけ不快に感じることがありました。そこはとても暑いのです。
40度くらいはあったのではないでしょうか。陽の光が熱いのではなく、空気
が熱いのです。私はその暑さに我慢ができず、河の方へ向かって歩き出しまし
た。河辺ならば少しは涼しいのではないかと思ったからです。

 歩き出して間もなく、私の肩を叩く者がいます。振り向くとそこには背広姿
の禿げた中年男性が赤ら顔で立っていました。

「いやいや、まだね、われわれオジンはキミたち新人類には負けやせんよ。
ヤングに負けないくらいナウいうちわ持っとるよわしゃ。いやいや、うちわじ
ゃなくてセンスだね。わっはっはっはっ!おっ?ウケなかったかな?これがホ
ントのうちわウケ、なーんちってからにして。わっはっはっはっはっはっ!え
っ?まだつまんない?こりゃ許してチョンマゲ〜、メンゴ、メンゴ。わ〜はっ
はっはっはっはっはっ!」

 私は困ってしまいました。多分どこかの会社の課長クラスの人でしょうが、
いちばん始末におえないタイプです。とにかくこういう人にはできるだけ関わ
らない方が無難だと思いました。まだしゃべり続けている男の人を後に足早に
河へと向かいます。

 と、今度は目の前でしゃがみこんで用を足している人がいます。しかしよく
見ると、その人は用を足しているのではなく、ただしゃがんでいるみたいです。
みるとまだ少年のような若者で、髪を茶色に染め、リーゼントで、頭に剃り込
みを入れています。学生服を着ていますが、いわゆる長ランというやつで、だ
ぶだぶのズボンをはき、白いエナメルの靴のかかとを踏んで、タバコを吸いな
がら、眉毛のほとんど無い顔で上目遣いにこちらを睨んでいます。

「ヤッパよぉ、カバンつぶしてドカンはいてソリ入れてツッパリやってりゃあ
よぉ、オレたちのことわかってくれる金八っつあんみたいな先公なんていねえ
んだよ。オレ達もよぉ、ホントは寂しいんだよ。やっぱ誰かにわかってほしい
んだよ。だけどよぉ、オレもよぉ、ハンパはきれえだからよぉ。そこんとこ夜
露死苦。あっコイツ、オレのスケ。ちょっとケバいけどシャンだぜ。マブイだ
ろ。」

 ちりちりのパーマをかけて、髪を茶色に染めた女の子がやってきて、やはり
同じようにしゃがみました。セーラー服の袖を折って、スカートは足が隠れて
しまうくらい長く、紫色のソックスをはいています。持っているカバンには、
学生服を着た猫のステッカーが張ってあり、「なめんなよ」と書いてあります。
顔はマスクをしているのでよくわかりません。

「なにみてんだよ。テメェナメんなよ。ヤキいれてやろっか!」

つきあってられないので、さっさと河に向けて歩き出します。ところが、その
とき妙なことに気付きました。
 
 先程に比べ、幾分涼しくなっているのです。

 私は考えました。先程の中年男性に会ったときもそうでした。会う前に比べ、
少し涼しく感じるようになりました。そして今度はいまどき何処を探してもい
ないようなツッパリに会って、また涼しくなったのです… 

 そうです。わかりました。多分彼らの発する時代錯誤な台詞が、私の体感温
度を下げてくれているのです。つまらないギャグなどを皆の前で言ったときに、
「場が凍りつく」ことがありますが、それと同じことが起きていたのです。

 だとすると、私は彼らに少しばかり感謝しなくてはなりません。彼らのおか
げで涼むことができたのですから。私は彼らを冷たく無視したことを少し反省
しました。しかし、ここにとどまっているわけにはいきません。その時の私に
は、河に行けば何か変わるのではないかという妙な確信みたいなものがあった
のです。

 私はまた河に向かって歩き出しました。河はだいぶ近づいてきました。しか
し、先程涼しかったのに、3分と歩かないうちにもう我慢できないくらい暑く
なってきました。そのとき、

「えーっ!やっだー!うっそー!信じらんなーい!っていうかー、そーゆーの
サイテー。もうプッツンきちゃうー。でもなんかー、はなしがピーマン? で
もこんなしょうゆ顔の人と会えてマンモスラッピー!アッシー、メッシー、ミ
ツグ君となんかとは違うって感じー。」

という声がすぐ後ろで聞こえ、私は一瞬、寒い、とまで思ってしまいました。
見るとデザイナーズブランドのボディコンシャスの服を着た、ワンレングスの
髪型の女性が立っていました。金の鎖がついたバッグを肩からかけて、羽のつ
いた扇子みたいなものを持っています。全体的にとても派手な印象です。

 私はこの人の言った台詞をもう一回頭の中で繰り返してみました。しかし、
この人が何を言いたいのか私にはほとんど理解できませんでした。ともかく彼
女の台詞で涼しくはなったので、それはそれで良かったのですが、どうも私は
この人と会話をしたいなどとは思わないのです。むしろ、できれば言葉を交わ
さないでこの場をやりすごしたい気分でした。

 ですから、私に涼を与えてくれた彼女には少し悪いと思いましたが、とりあ
えずその場では彼女を無視して河へ向かってさらに歩き出しました。

 河まであと少しというところまで着たところでした。背の高い青年が私の前
に突然現れました。高そうなダブルのスーツを着ています。これもデザイナー
ズブランドなのでしょう。時計もロレックスをしているようです。

「やっぱ、アレですよねー。会社入ったからには、ヤンエグ目指すっていうん
ですか。向上心がないとねー。やっぱ、入ったばかりのボクが言うのも生意気
かもしんないけど、先輩のやり方ってまだ甘いと思うんすよ。これからトレン
ディなのはハイテクとバイテク、それとCIですね。いわゆるコーポレートア
イデンティティってヤツですよ。個性化の時代に対応して企業も個性化しなき
ゃ、不確実性の時代は生き残れないと思うんすよねー。あと時代はメセナです
ね。企業も文化とか芸術とかに貢献しなきゃダメっすよー。」

 学生時代ボクシングをやっていたので、右ストレートには自信があったので
すが、そんなことをしている余裕は私にはありませんでした。私はいま自分が
置かれている状況を把握しようと一生懸命に考えていたからです。体が涼しく
なるのは良いのですが、どうしてこう次から次へと不可解な人物が私の前に現
れて、わけのわからないことを言うのでしょう。赤ら顔の中年サラリーマン、
ツッパリのカップル、言葉が文になっていない女、時代遅れのビジネス論を得
意げに語る新入社員… 彼らに共通するものは一体何か… 

 と、突然私の頭にひらめくものがありました。

「死語の世界だ…」

 そう、私は事故の後、死後ならぬ死語の世界に来てしまったようです。なんで
こんなことになってしまったのか、私には全くわかりません。私は河辺まで来
ると、座り込んでしまいました。どうしたらよいのか途方に暮れていたのです。

 ところが、長い時間途方に暮れている訳にはいきませんでした。その河には、
なんとお湯が流れていたのです。ただでさえ暑いのに、蒸気のたちこめる河辺
なんて真っ平です。私はもと来た場所へ引き返そうとしました。

 そのとき、河の対岸から楽しそうな声が聞こえてきました。河といっても幅
5メートルくらいの小さなものだったので、向こう岸はすぐそばです。湯気で
少し視界が悪かったのですが、よく見ると、先程私に話しかけてきた人達が、
皆でかき氷を食べています。

「いただきマンモスー。」

「ちべた〜い、まいっちんぐ。」

「ゲロうま!」

「めっちゃんこうめえ〜!」

「おっ、このかき氷熱いぞ、ウソぴょ〜ん!」

彼らの言葉を聞いているだけで少しは涼しくなりましたが、やはりお湯の河
辺では限界があります。私も対岸に渡って、かき氷を食べたくてどうしようも
ありませんでした。この暑い中、もう30分以上歩いていましたし、その間な
にも口にしていません。対岸に渡る橋はないかと探してみましたが、どこにも
無いようです。私は泳いででも渡ろうと思い、河の水に足をつけてみました。
しかし、お湯は思いのほか熱く、60度くらいありそうです。とても向こう岸
までは渡れそうにありません。

と、そのとき、向こう岸から声が聞こえました。

「死語をはなしてごらん」

いままで会った誰の声でもありませんでした。すごくやさしい声でした。誰の
声だろうという疑問もありましたが、そのときの私は一刻も早くかき氷を食べ
たくてどうしようもなかったのです。とりあえず私は言われるがままに死語を
考えました。

「あたり前田のクラッカー!」

すると、どうでしょう!河の岸近くから大きな石が一個せりあがってきました。
私は、その石に足をかけてみました。びくともしません。私は石に乗ると、ま
た言いました。

「チョベリバ!」

すると乗っていた石が今度は沈んでいきます!あわてて岸に飛んで戻りまし
た。どうやらチョベリバはまだ死語ではないようです。気をつけなければなり
ません。またやり直しです。

「バイビー!」

石がまた出てきました。どうやら大丈夫なようです。

「サンキューベリマッチョ!」

「余裕のよっちゃん!」

「そんなバナナ!」

「冗談はよしこさん!」

 立て続けに四つの石を渡り、向こう岸までもう少しというところまで来まし
た。熱湯の流れる河を渡っているため、私はもう汗だくでした。かき氷を食べ
ている人達の声がすぐ近くに聞こえます。あとひとつ、あとひとつだけ石を出
すことができれば、向こう岸に渡れます。冷たいかき氷が私を待っているので
す。私はもう無我夢中で叫びました。

「ぎゃふん!!」

その途端、まるでレコードプレイヤーから突然針をあげた時のような、ブチッ
という音と共に全ての音が途切れました。河のせせらぎも、向こう岸の声も聞
こえません。そして、目の前の風景に黒い霧がかかるように、視界がどんどん
暗くなり、私は自分が深いトンネルに吸い込まれていくような感覚に襲われま
した。


                ◇◇◇


 気がつくと、白い天井がありました。蛍光灯が光っていて、小さな蛾が一匹、
ぶつかりながら飛んでいます。やがて視界の端の方に黒いものが現れ、輪郭が
だんだんとはっきりしてきました。妻と子供の顔でした。

「あなたぁっ!気がついたのね、よかったぁ!」

「パパー!」

妻と子が私にすがって泣いています。私はようやく、自分が事故にあって死ぬ
ところだったことを理解しました。私は死の淵から蘇ったのです。

 意識はもうろうとしていましたが、私にはひとつ釈然としないことがありま
した。それは、あの最後の死語でした。なぜ「ぎゃふん」はダメだったのだろ
う。まだ現実感の無かった私は、そのことで頭がいっぱいでした。

「ぎゃふん」

私は口に出していってみました。何も起こりません。

「え、何? あなた何か言ったの?」

妻が尋ねます。私はもう一度言ってみました。

「ぎゃふん」

「あなた… 一体どうしちゃったの… やっぱり頭を打ったせいだわ。ああ
っ。」

脇で泣き崩れる妻をよそに、私はぼんやりとした頭で考えていました。

「やっぱり死語だったのか… じゃあ、オレはただ嫌われてただけなのか… 
ああ、よかった、好かれなくて…」


                ◇◇◇


 それから半年後、身体も回復した私は、この不思議な体験をある言霊師に聞
いて貰いました。言霊師というのは、この世から見捨てられた言葉や宿怨を持
つ言葉などを供養する人です。その方が言うには、「ぎゃふん」は現世と涅槃
を結ぶ特殊な死語なのだそうです。「ぎゃふん」は死語にもかかわず、いや死
語だからこそ世間で多用されるという「死して生を得た語」という特殊な立場
にあるため、霊界と現世との仲介役を果たしているそうなのです。ある特別な
条件のもとで、人が「ぎゃふん」というと、死語の世界へと迷い込んでしまう
というのです。

 その話を聞いて、私は思い出しました。事故の瞬間、ガードレールにぶつか
る直前、あの死語の看板を見た私は、

「ぎゃふん!」

と叫んでいたのです。たぶん看板の死語が引き金となって、私の中の死語を呼
んだのでしょう。それがきっかけで、死語の世界へ足を踏み入れてしまったの
かもしれません。そして向こう岸に渡る一歩手前で、また「ぎゃふん」と言っ
たため現世に戻ってきたのかもしれません。あの河はやはり三途の川だったの
でしょうか。今となっては知る由もありませんが、もしそうならば私は危機一
髪で生還したことになります。

 今では身体もすっかり良くなり、以前と同じ生活に戻りました。妻は、事故
のことは悪い夢だと思って忘れてくれと言います。しかし私はときどき、ふと
考えてしまうのです。私が迷いさまよった死語の世界、もしあの時向こう岸に
渡っていたら、その後一体なにが起こったのでしょう。生きていることの喜び
をひしひしと感じながらも、やがて必ず死ぬ運命にある人間として、私は死語
の世界のことを考えずにはいられないのです。



光デパート        使用上の注意
97/09/11 10:56

「ギャフン」使用上の注意

 人ごみや公衆の面前での使用は避けてください。誤って
 人気者になり、後の人生で苦労する危険があります。

 お茶を飲みながらの使用はお避け下さい。松茸に吟醸酒
 との組み合わせについても、私としては納得いきません。

 お子様が使用する場合、必ず保護者が付き添うようにし
 てください。子供のひとりギャフンは、後の人格形成に
 そこはかとない影響を与えます。

 発声時には必ず、周囲の人との距離を3メートル以上と
 って下さい。やむをえず至近距離からギャフンする場合
 は、事前に周囲への根回し、つけ届けが必要です。

 聖職者、公務員の方は使用を避けたほうが賢明です。

 裁判官、死刑執行人の使用はもってのほかです。

 外国人の使用について法的な制限はありませんが、まっ
 うなセネガル人がギャフンなどと口に出してよいもので
 しょうか?

 キャンプでの使用の際には、後の人のことを考え、必ず
 後始末をしましょう。使用後の処理法については、「な
 かったことにする」「失恋した勢いで健忘症」などがあ
 ります。

 運転中のギャフンは極力避けましょう。やむをえずギャ
 フンする場合は、差し上げた手をいためないよう、愛車
 をオープンカーに改造するか、ハコ乗りすることをお勧
 めします。

 死の間際に、最後の言葉として使用することに問題はあ
 りませんが、一生を振り返って思いとどまるのもまた一
 興でしょう。

スナフキソ        ふるさと夢紀行
97/09/14 10:55

≪ ふるさと夢紀行 〜 ぎゃふんのふるさとを訪ねて 〜  ≫

 午前3時、池島文夫さん(65)は半紙をひもでとじた分厚い束を神棚に置くと、
大きくため息をついた。夜遅くまで書き物をしていた疲れもあったが、そのため
息はどこがさびしげだった。「今年の頭屋で終わりにしよう。」このとき池島さ
んはそう考えていた。

 山口県防府市で毎年12月行われる神事「ぎゃふん講」。毎回この神事のとり
まとめを行うのが頭屋の仕事。講員21人が毎年交代でひとりずつこの頭屋をつ
とめる。池島さんも20歳のころからこのぎゃふん講に参加し、これまで頭屋を
2回つとめたことがある。しかし、ぎゃふん講は見た目以上に体力を使うため、
今年で引退して、福岡で会社勤めをしている息子の洋介さんに講員を引き継ごう
と考えていた。今までほとんどぎゃふん講を見たことがない洋介さんをぎゃふん
講の準備に呼んだのはそのためである。しかし、防府に戻るつもりのない洋介さ
んを後継者になるように説得するのはむずかしそうである。

 12月1日、ぎゃふん講当日。21人の講員たちと大勢の観客、報道陣が頭屋
の家に集まる。すると、間もなく講員たちは豪華な仕出し弁当をつつきながら、
酒盛りを始める。宴も最高潮になったころ、巫女が太鼓で合図をすると頭屋が腰
を落として背筋をピンとのばしながら神棚まで素早く進み出る。神棚から半紙の
束を両手でしっかり持ち、巫女が持つ三方にゆっくりおろしていく。宮司がその
半紙の束を御払いした後、頭屋は頭を下げながら宮司から三方を受け取る。ゆっ
くりその半紙を持ち上げると、左端の講員、高橋さんの前まで進み、正座する。
巫女がここで太鼓を三度たたく。

 ドーン、ドーン、ドーン

 ぎゃふん講のはじまりである。ここで、頭屋は半紙に書き連ねた言葉を独特の
節回しで読み上げる。

 「はげ頭で痔核持ち、甲斐性なしのフニャ■ン野郎、おまえのかあちゃんで〜
べーそー・・・」

 高橋さんは早くもここで半泣き状態となった。頭屋はさらに、

 「・・・中学になっても寝小便、高校入ってもまだ母ちゃんとお風呂入ってた・・・・」

 「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃっふーーーん」

 と、高橋さんはたまらず叫び声を上げ、両手を広げて後ろに倒れると、そのぎゃ
ふん振りに観客から大きな笑いと拍手が起こった。こうして頭屋は講員一人一人の
弱みを観客の前で披露し、大恥をかかせる。鎌倉時代、この周辺の土地が開拓され
た頃、貧しい農民たちが自分たちの弱みを村人たちにさらけだすことで逆に結束を
固め、苦しい生活を乗り切ったというのがぎゃふん講の起源だと伝えられる。

 ぎゃふん講も最後の一人、講員の中では最長老の重森さんの番となった。長年ぎ
ゃふん講に参加してきた重森さんにとって弱みはほとんど出尽くした上、少々のこ
とでは動揺しなくなっていた。頭屋の腕が問われるところである。

 「・・・・・家族のお荷物、死に損ない・・・・・ 」

 と言ったかと思うと、頭屋は懐から紙切れを一枚取り出した。
 それを見た重森さんは、顔が真っ青になり、胸をかきむしり、涙を流しながら、

 「ぎゃふぅーーくっ、うっ、んんんんっ」

 90才とは思えないほどエネルギッシュなぎゃふん振りである。その紙切れとは、
がんに侵された重森さんの命があと三ヶ月だという医師の診断書であった。

 ぎゃふん講.... 人それぞれ、十人十色のぎゃふんの競宴.....

 日本では屈指の「バカ神事」である。


やゆよ            徳川最後のぎゃふん
97/09/15 05:00

 慶応四年四月十日の夕刻、江戸城の一角で、ある御前試合が行われた。出場し
たのは、全国から選りすぐられた、ぎゃふん道の達人、たった三人。
 老中、板倉勝静が声高に叫んだ。
「隣の家が囲い作ったってねぇ。かっこいい」
 一人目の達人、堀井庄三郎は、板倉の駄洒落に
「ぎゃっふぅん」
 と応え、そのまま見事なとんぼ返りを切ったかのように見えた。
 ところが、尻を空高く上げ、地面に向けて万歳した堀井は、その勢いを保ち、
空中で猛烈な回転を続けている。
 ぎゃふん道の姿勢としては、基本中の基本といえよう。この堀井庄三郎という
会津藩士の凄いところは、基本の姿勢を保ったまま、空中で回転を続けているこ
とにある。堀井を支えているのは、厳しい鍛錬で養った精神力しかない。
 その場に居合わせた幕臣たちは、初めて見る技に息を呑んだ。書物の中の空想
でしかないと思っていた「術」を、彼らの目の前で、生身の人間がこうして実際
に使っている……。
 ただ一人、悲しい視線を堀井に向けている男が、この場にいた。徳川第十五代
将軍、慶喜である。

 戦国のころ、ぎゃふんを知らぬ者は戦場で生き残ることができなかった。しか
し、太平の世が二百六十五年続いた結果、ぎゃふんを解す武士は、ほとんど残っ
ていない。
「それでも、良い」
 と慶喜は思っている。笑いの形は、時代とともに変わっていく。横浜見物に行
った腰元の一人によれば、最近は米利堅人の講釈が流行りらしい。向こうの講釈
師は、座布団の上に座らない。羽織も着ない。立ったまま、人種についての冗句
を早口でまくしたてる。慶喜をはじめとする武士階級には通じない笑いだが、庶
民はこの新しい笑いに飛びついた。
 そして、薩摩、長州もこの洋式の笑いを熱心に取り入れている。

 次に登場した達人は、越前藩でぎゃふん道の指南役を務める落合竹造。
「隣の家が囲い作ったってねぇ。かっこいい」
 落合竹造もまた、
「ぎゃっふぅん」
 と返し、宙に浮かんだ。堀井庄三郎と違い、落合は直立したままだ。しかも、
速度を増しながら上昇していく。あっという間に、落合は朱色に染まった雲の中
に消えてしまった。
 回転と並ぶぎゃふん道の基本、噴射である。ただ、落合の場合は噴射の量が人
並みはずれていた。なにを噴射したのか。多少の嗅覚を具えた者なら、考える必
要はなかった。

 前の年の十月十三日、慶喜は京都で、朝廷に対して大政を奉還している。幕府
に日本を統治する能力がないことを認め、徳川家が代々継承してきた政権を放棄
したのである。
 その日の夜、慶喜は板倉勝静を呼び寄せ、こう命じている。
「ぎゃふん道の達人を集め、御前試合を開くのだ」
 板倉は、聞き返した。
「この時期に、御前試合でございますか」
 板倉の疑問は、当然である。ぎゃふんを主力とする旧来の戦術で、米利堅や英
吉利から新しい笑いを導入している薩摩藩や長州藩に歯が立たないことは、幾多
の敗戦ですでに明らかになっていた。大政奉還の結果、薩長がすぐに幕府に対し
決戦を挑む可能性はなくなったとはいえ、御前試合をしている余裕など、とても
ない。
「最強の使い手、五人、いや、三人でよい。今から手を尽くして集めるのだ」
「しかし、」
「板倉、お前は黙ってわれの言う通りにすればよい」
 と言って、慶喜は微笑んだ。この、深謀の将軍がなにを考えているのか、板倉
にはまったく見当がつかない。

 最後に登場した達人、桑名藩士飯田慎太郎は、手足が細く、色白で、目鼻立ち
の整ったなかなかの美男子である。他の二人の達人のような力強さ、荒々しさは、
飯田の外観からは少しも感じられなかった。
「隣の家が囲い作ったってねぇ。かっこいい」
「ぎゃっふぅん」
 飯田が、美男子に似つかわしくない鼻から息が抜けたような音で答えたのは、
声色をわざと変えたからではない。いつのまにか、飯田の目と鼻は二つずつの点
になっていた。そして、小さな鼻からずるずると洟が出て、またたく間に足下に
小さな池ができた。
 ぎゃふん道のなかで最も難しいと言われる、「洟垂れ小僧」である。

 堀井庄三郎、飯田慎太郎、そして蛇の目傘を手にゆっくりと地上に降りてきた
落合竹造。三人があらん限りの力を出し尽くした、見事な勝負であった。日本の
ぎゃふん道は、その命を終える寸前、頂点に達したと言って良い。慶喜がいなけ
れば、この劇的な御前試合は実現しなかった。ぎゃふん道の最後の華を咲かせる
ために、天が徳川慶喜という男を地上に遣わしたとしか思えない。

 その慶喜はやや考えた後、紙に筆で何かをしたため、これを折り畳み、板倉勝
静に渡した。中には、御前試合の勝者の名前がある。堀井庄三郎か、飯田慎太郎
か、落合竹造か。勝者は誰なのか。

 板倉は、紙を広げ、これを三人の達人に向けて高く掲げ、大声でこう読み上げ
た。
 「練習終わり! これより本番!」

 予想もしていなかったオチに、さすがの達人たちも慌てたのであろう。美男子
に戻っていた飯田慎太郎は再び洟垂れ小僧化し、隅田川を江戸城に引いたかと思
われるほど勢いよく洟を吹き出した。落合竹造はまるで大砲の弾丸のように、江
戸城の天井という天井、壁という壁を突き破った。堀井庄三郎の回転は、大奥を
一瞬のうちに廃墟にした。
 江戸城全体が崩落するまで、小半時もかからなかった。

 翌四月十一日、江戸城はそのままの状態で新政府に明け渡された。それ以降、
歴史の表舞台に登場することは二度となかった慶喜だが、退隠先の水戸に向かう
途中、表情はまるで勝者のように晴れやかだったと言われている。


闇太郎            古文の授業
97/09/15 14:35

「そしたら、最後の行を読んで訳してもらおか。32番の次やから42番。」

「はい。『いつか水虫オヤジをぎゃふんといわせたいなあ(笑)。』
えーと、いつか水虫オヤジに鐘を鳴らして欲しいなあ、かっこ、自分
でも笑ってしまう文章である。」

「ん?そのぎゃふんの意味は間違いやで。2番の人はどう訳してる?」

「何も言い返せないぐらい言い負かしてやりたいなあ。」

「よろしい。ここに出てくる水虫オヤジというのは誰のことですか、12番。」

「3行目に登場する課長のことです。」

「そうやね。これはノートせんかてええけど、今から100年ぐらい前は
東京にいっぱい高層ビルが建ってたんやね。その当時そこで働いてた女性が
書いたのがこの『キャピキャピ日記』で、数少ない資料の中でも大変価値の
あるもんやねん。で、今日勉強した章は、当時の身分制度やそれに対する
人々の考え方がよく書かれてるので、有名です。」

  ぎゃふん  ぎゃふん  ぎゃふん  ぎゃふーん…

「はい、ぎゃふんが鳴ったから、これで終わります。」

「起立、礼。」

  …ぎゃふん  ぎゃふん  ぎゃふん  ぎゃっふーん
                                                         闇太郎

やま              無差別爆弾テロ事件続報
97/09/15 21:20


 先週丸の内で起きた無差別爆弾テロ事件は死傷者52名にも及ぶ大惨事となっ
たが、使用された爆弾は昭和50年当時に仕掛けられた「不発弾」であったこと
が、今日午後行われた警視庁の記者会見で明らかになった。
 この爆弾につけられた起爆装置は、特定の周波数の組み合わせに反応する一種
の音声認識装置であり、音響研鈴木所長の解析によると、設定されていた可聴域
周波数(音階)に相当する言葉は「ぎゃふん」であるという。
 警視庁では、昭和50年当時より「ぎゃふん」という言葉が死語となっていた
め、これまで20年以上爆発することがなかったのではないかとみている。今回
の大惨事は、不幸にも古いギャグセンスの持ち主が爆弾の近くにいたことにより
引き起こされたものであり、警視庁では事件の被害者の中から、該当人物の割り
出しを急いでいる。しかし事件の引き金となった人物が判明した場合も、本人の
名誉のために発表は差し控える方針。
 警視庁では、同様に「あじゃぱー」「はらほろひれはれ」などの言葉に反応す
る爆弾がまだ都内に眠っているのではないかとみて、都民に注意を呼びかけてい
る。

                                            97/09/15(月) やま


chakio            ときめきシャーロックの漫才foreverテスト【ネタバレ】
97/09/15 23:35

  次のボケに対して一行づつ適切なツッコミを入れ、たまらなく愉快な文章
 を完成させて下さい。よろしくお願いします(30点)。

  「僕思うんですけど、最近の女の子はだめですね。甘やかされすぎて」
  「                                 」
  「もっと、ジャングルの中で泥水すすりながら銃持って走り回るくらいの
   苦労しないと」
  「                                」
  「あと、整形して日本中逃げ回るとか」
  「                                」
  「まあそれはそれとして、高校のときいませんでしたか? 学園のアイド
   ルなんつってちらほらされてるやつ」
  「                                」
  「いたでしょう、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、明朗会計という女
   の子が」
  「                                」
  「気だてが良くて同性からも異星人からも好かれるタイプ」
  「                                」
  「でも、なぜだか髪が赤い」
  「                                」
  「いや、そういうレゾン・デートルだから」
  「                                」
  「そういう完璧な女の子は、何とかして……」
  「                                」
  「一度ぎゃふん言わせたろ、思うわけやねん」
  「                                」
  「うーん……地下室に拉致します。コレクターの常として」
  「                                」
  「週給4ポンドで百科事典を書き写させる。その間に彼女の家から銀行に
   地下道を掘る……ってとこだな………………ワトソン君」
  「                                」
 
                                                      chakio(HGG03567)

だんつな          マジック新製品ご案内
97/09/15 23:49

           "Gaphon in Brain"
        Produced by Inder Magic Co.

      今世紀最高のマジックが生まれました!
      考案は皆様ご存知の奇才,S.W.Indler!

        全く新しい斬新なトリック!
         驚愕のクライマックス!

         練習は一切要りません!
     初心者でも十分演じることが出来ます!

 現象:
  演者はまず,1人のお客さんを選び,帽子をかぶってもらいます.
  演者はお客さんに,好きなアイドルと,原発の是非を聞いた後
  白装束に身を包み,あらん限りの声を張り上げて
      荒々しき生霊頓證仏果.心月の泥濁に刻め!
      見我心者発菩提心っ! 業焚!業焚!業焚!
  と唱えます.

  すると!
  お客さんの大脳の前頭葉と頭頂葉を分かつ中心溝(ローランド裂溝)に
  数百に及ぶ”Gaphon!"の文字が刻み込まれます!

  お客さんは文字が刻まれたことに全く気づきません!
  これで,お客さんが何らかの不幸な事故犯罪等にあって,
  司法解剖(或いは行政解剖)に処せられた際,
  頭蓋骨を開けた検死官がビックリ!と言うわけです!

  一度刻まれた文字は一生消える心配はないので,
  確実に検死官を驚かせることが出来ます!

  さぁ,
  是非貴方の手でこの時を超えるミラクルマジックを成功させて下さい!

  なお,刻み込むフォントはArial Black,Times New Roman(Bold/Itaric)から
  サイズは8point〜256pointから選べます.(但しカラーは黒に固定)


                        夢を貴方に ☆ミ
                            Indler Magic Co.
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